2026 フレンチオープン 〜全仏オープン予選、スザンヌ・ランランで感じた勝負の重み〜
こんにちは。SarchCの播磨です。
前回のヨーロッパツアーサポートを終えた後、私は一度日本に帰国し、約2週間スタジオでトレーニング指導を行っていました。
その後、再びフランスへ戻り、Tseng選手に合流しました。
目的は、全仏オープン予選への出場です。
正直に言うと、今年に入ってからTseng選手は思うように勝ち星を重ねられていません。
ランキングの関係で大きな大会にギリギリ入れず、出場機会を逃すこともありました。
昨年獲得したポイントのディフェンド、ラケット変更による感覚の調整、そして結果を求められるプレッシャー。
プロテニスの世界では、技術や体力だけでなく、こうした目に見えない重圧とも向き合い続けなければなりません。
今回、私が日本に帰っていたのはわずか2週間。
それでも再びヨーロッパへ戻ったのは、Tseng選手自身が今年のクレーコートシーズンを非常に重要視していたからです。
「全仏オープンに向けて、できるだけサポートしてほしい」
その言葉には、この大会にかける強い思いがありました。
私自身、Tseng選手がジュニア時代に全仏オープンを優勝した時もサポートさせてもらいました。
そしてプロになって初めてグランドスラム本戦に上がった時も、現場に立ち会わせてもらいました。
だからこそ、この大会には特別な思いがあります。
グランドスラムは、賞金やポイントが桁違いなのはもちろんですが、他の大会と大きく違う点があります。
それは、予選から含めると大会期間が約3週間にわたり、本戦では5セットマッチが行われるということです。
予選に出場する選手たちは、まず3セットマッチを3試合勝ち抜かなければなりません。
そしてそこから、本戦の5セットマッチが始まります。
体力、技術、メンタル、回復力。
すべてが高いレベルで求められる、本当に過酷な大会です。
個人的に、4大大会の中で一番好きなのがこの全仏オープンです。
会場の雰囲気、赤土のコート、観客の熱気、そしてどこかお洒落な空気感。
ついつい全仏だけは、お土産を買ってしまいます。笑
そんな特別な舞台に、Tseng選手は予選から挑みました。
2週間ぶりに合流してまず感じたのは、練習量がかなり増えているということでした。
コート上での動きは以前よりも滑らかになり、ラケットとの相性も少しずつ改善されているように見えました。
状態は悪くない。
むしろ、良い方向に向かっている。
そう感じていた中で、予選ドローが発表されました。
初戦の相手は、あのダビド・ゴファン選手。
ゴファン選手は、今年が現役最後のシーズンとされており、今回が最後の全仏オープンになります。
ドローが発表された瞬間、たまたま私はゴファン選手の近くにいました。
その瞬間、彼の目つきが一気に変わったのを覚えています。
穏やかな表情から、勝負師の目へ。
まさに戦士の眼でした。
目が合った瞬間、私は心の中で思いました。
「これはまずいな」
研ぎ澄まされたナイフのような、鋭い目。
最後の全仏にかける覚悟が、その表情から伝わってきました。
一方のTseng選手は、相手がゴファン選手だと分かっても比較的リラックスしている様子でした。
なぜなら、直近の大会で一度ゴファン選手に勝利しており、良いイメージを持っていたからです。
しかし、グランドスラム。
しかも全仏。
そして相手にとっては最後のローランギャロス。
同じ相手でも、状況が変われば試合の意味は大きく変わります。
翌日、予選1回戦がスタートしました。
舞台はスザンヌ・ランラン。
全仏オープンの中でも、フィリップ・シャトリエに次ぐメインコートです。
Tseng選手にとっては、初めて戦う大きな舞台。
入念にウォーミングアップを行い、試合に臨みました。
しかし、コートに入った瞬間から空気は完全にゴファン選手のものになっていました。
スザンヌ・ランランの熱狂。
大きな歓声。
ゴファン選手のカリスマ性。
そして、最後の全仏に挑む選手を後押しする観客の空気。
試合会場は、完全にアウェーでした。
こうした状況はこれまでも何度も経験してきました。
しかし、この日のゴファン選手は、試合が進むにつれてどんどん伸び伸びとプレーしていきました。
一方でTseng選手には、常にストレスのかかる展開が続きました。
流れを変えたい場面でも、会場全体の空気が相手を押し上げていく。
結果、Tseng選手は予選1回戦で敗退となりました。
前回勝っていたことによる油断も、もしかすると少しはあったかもしれません。
ただ、それ以上に私は、ゴファン選手の最後の全仏にかける思いを強く感じました。
勝負の世界では、技術やランキングだけでは測れないものがあります。
この日のスザンヌ・ランランには、まさにその空気がありました。
翌日はオフとなりましたが、選手用レストランを利用できることもあり、いつも通り会場へ向かいました。
会場には、この日試合を控えていた内田海智選手がいました。
海智とは14歳くらいの頃からの付き合いで、今でもタイミングが合えばSarchCのスタジオにトレーニングに来てくれます。
私が「今日頑張れよ!」と声をかけると、海智が聞いてきました。
「昨日どうでした?やばかったですか?」
私は答えました。
「まぁ、スザンヌ・ランランでゴファンやったし、歓声すごかったよ」
すると海智が、
「僕もスザンヌ・ランランなんです。それも相手は地元です。笑」
この流れから、久しぶりに内田選手のファミリーボックスに入り、コーチのノルベルトと話しながら応援することになりました。
結果は、残念ながら敗退。
同じスザンヌ・ランランで2日連続の敗戦。
正直、とても悔しい時間でした。
ただ、スザンヌ・ランランという素晴らしい舞台で試合ができる選手は決して多くありません。
その場所に2日連続で入らせてもらえたことは、Tseng選手、内田選手に本当に感謝しています。
それでも、やはり勝ちたかった。
もちろん、一番そう思っているのは選手自身です。
だからこそ、私たちサポートする側は、悔しさを受け止めながらも、次のチャンスに向けて動き出さなければなりません。
勝利の瞬間だけが、選手を支えているわけではありません。
負けた後にどう向き合い、どう整え、どう次へ進むか。
そこにこそ、サポートの本質があると感じています。
今回の全仏オープンは悔しい結果となりましたが、この経験が次の試合、次のシーズン、そして選手のキャリアにつながるように。
また現場で、一つひとつ積み重ねていきたいと思います。
